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電子構造研究系 分子研リポート1999 | 分子科学研究所

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4-3 電子構造研究系

国内評価委員会開催日:平成11年12月15日 委 員 濱口 宏夫 (東大院理,教授)

大野 公一 (東北大院理,教授) 西  信之 (分子研,教授) 藤井 正明 (分子研,教授) オブザーバ 鈴木 俊法 (分子研,助教授) 国外評価委員面接日:平成11年12月13日∼23日

委 員 Professor Klaus Müller-Dethlefs (Department of Chemistry, The University of York)

4-3-1 点検評価国内委員会の報告

電子構造研究系では,この3年間に2名の教授と1名の助教授の交代があり,基礎電子化学研究部門では研究内容 にも大きな変化があった。溶液の研究とクラスターの研究を結び付けるような新しい研究と言う立場から西信之教授 が,レーザー分光技術と光電子分光や赤外分光を組み合わせた新しい手法による電子構造の研究という立場から藤井 正明教授が,また,これからの新しい研究分野へ対応し,金属クラスターの電子構造,機能物性の研究を行うべく佃 達哉助教授が着任した。鈴木俊法助教授は,分子線手法とイオンや電子の運動エネルギー分布画像解析手法,更に超 高速レーザー分光法とを組み合わせて反応動力学への精緻なアプローチを行っている。このような人事によって電子 構造研究系では,孤立分子や溶液,そして表面の孤立分子という対象に加え,新たにクラスターという分子集合体を 研究の対象として捉え,集団の中の分子の性質,動態,構造変化などを追求して行く研究が展開されることになった。 以下に,委員会メンバーが電子メールを通して議論を重ねた幾つかの点について記述してみたい。

[大学と研究所そして系という組織]

C(所内): 大学との区別化が可能な研究をどのように進めて行くかは,分子研の持つ大きな問題の一つです。電子 構造研究系のように,個々の研究グループの専門的な研究内容は微妙に違っていても,全体としてみる と共通性が高いテーマを持ったスタッフを揃えた集団の中では,それぞれのグループが内容的にも技術 的にも活発な交流を持ち,科学的好奇心を刺激しあって最先端の結果を出すことができます。このよう な環境の実現という意味では,現在の大学には見られない研究体制をとっていると言えるでしょう。特 に,それぞれのグループに属する若い研究者の密な日常の交流を更に活発にするような環境の整備を考 える必要があると思います。

A(所外): 大学は,学生と共同で進める研究においては,学位論文指導という制約から,一定期間内に学位論文と してまとめることが要求されることと,技術者・研究者養成のためのトレーニングも兼ねる課題が望ま しいということなどが,研究所での研究課題設定と決定的に異なります。前者の条件から失敗できない 面があると同時に,とくに学士論文やときには修士論文でも,アカデミックには失敗して単なる練習に 終わっても許される場合があります。大学には,このような教育的な制約があり,また,工作室や機器 センターなどの研究支援体制においても,一般に大学は研究所と比べて,貧弱な環境にあります。こう したことを考慮すると,自ずと研究所の使命がより鮮明になるはずです。先に提出した「意見書」では, こうした大学の状況との比較はほとんど行いませんでした。結論をいいますと,研究所では,教育や人

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材育成といった側面は度外視し,失敗をものともせず,可能性を求め,技術の粋を尽くし,ブレークス ルーに挑戦することが肝要ということになるでしょう。

B(所外): 大学と研究所で行われるサイエンスに違いがあるはずがありません。目指すサイエンスは同じであるが, それを実現するための実行手続きが異なり得るということでしょうか。大学では実行が難しい研究が分 子研ならば可能であるという状態が分子研にとって最も望ましいのではないでしょうか。また,分子研 では系と言う組織が特徴の一つとなっていると思います。この点で,私の意見は,Cさんの意見と一致 しています。

D(所内): 分子研はいわゆる「研究所」とも異なっており,総研大の学生も在籍し,また,助手でさえ6年任期で す。心構えとして「失敗をものともせず,可能性を求め,技術の粋を尽くし,ブレークスルーに挑戦」と いうのは重要でしょうが,大学院生,助手に対しても責任を持つ事を考えると「教育や人材育成といっ た側面は度外視し… … 」とは思えません。やはり,分子研は大学に近い組織と私には思えます。ある時, 分子研はポスドクを教育しているのだ,という方が居りましたが,その方がまだ現実に近いように思い ます。

E(所内): 分子研では大学ではできない研究を行うという意味は,大学では買えない高価な装置で実験するという ことではない,と思っています。何年も鳴かず飛ばずになっても挑戦する研究姿勢を持たねばならない と思います。一方で,総研大学生は,ゼロから出発し3年間の内に博士論文にまで到達せねばならない という過酷な時間的制約を負っており,余り挑戦的な課題を与えることができないのが現状と思います。 冒険的な課題は,職員自身の研究にしか設定できません。この問題は,分子研が総研大の一翼をも担う という二重構造の本質的なジレンマに起因しており,それ故に,いろいろな意見があるのは当然ではな いでしょうか。一方,系に属する研究グループの交流に関してですが,長い間グループ間の合同セミナー が立ち消えになっている事が指摘されます。研究活動で国際的に闘わねばならない我々は,近しい相手 と研究に対する議論を尽くすことが大事ではないでしょうか。系には創造的な学問の雰囲気を充満させ ることが大事で,このような「研究上の交流」はそのために必須ではないでしょうか。

D(所内): 研究者同士の交流は重要です。研究者交流による触発ができれば分子研に在籍する大きな魅力になるは ずですが,現状ではほとんど有効に機能してないと思います。研究者の交流はグループ間セミナーの様 な堅苦しいものではなく,インフォーマルに別のグループの人間と「これ,どう思う?」と自由に意見 交換(?)できることが重要だと考えています。そのような雰囲気が現状では不十分だと思い,私も促 進するよう心がけています。

[研究室の規模]

E(所内): マンパワーの問題は常に我々のジレンマです。しかし,分子研の研究員増員は事実上困難だと思います。 助手や技官の数は減る一方ですし,博士研究員の数も惨めなものです。また,現在の社会状況の中で,日 本国内で人材を集めること自体が容易でないと思います。当面,少人数という与えられた環境の中でど うやって国際的に通用する研究を行うかという戦略(テーマの選択)が必須と思われます。すなわち, この人数ではできる研究とできない研究があるのではないでしょうか。

A(所外): 現状の規模では,労働集約型の研究は不適当であり,アイディアと技術の粋を集中する先端的課題への 挑戦が最適であると思います。これは次の研究戦略とも関係しています。

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D(所内): 現実的対処として重要なご指摘と思います。人数が少ないので現実問題,推進できるテーマを選ばざる を得なくなっています。一方,現在の規模は分子研設立当時よりもスタッフ数が減少していることもご 理解頂きたいと思います。以前は教授グループは助手2技官1,助教授グループは助手1技官1だった と思いますが,現状では助手1というケースもあります。分子研は昔から人数が少ないことが問題と言 われていたはずなのに,現実はグループ数の増加に従って逆の動きをしているわけです。残念ながら総 研大は1学年12人定員であり,博士の進学者数が少ない現状では必ず入学してくるとは期待できません し,助手とは意味合いが異なります。人数が多ければ良いとは思いませんが,いわゆる国立研究所や理 研などと比べても小規模すぎると思います。また,大学では教官1名で1研究室と言うことも有り得る わけですが,教育義務と引き替えに学生と協調作業ができます。分子研の研究室規模や総研大併任/助 手任期を含む独特のスタイルは,いわゆる研究所とも大学とも異なるため,私は制度的な中途半端さを 強く感じる点です。

B(所外): 研究グループによってその規模が大きく異なっても良いのではないかといのが私の意見です。

[研究戦略]

C(所内): 分子科学研究所は創設後25年を迎えようとしており,この間,分子科学の大きな進歩に貢献してきまし た。分子科学自体も大きな変貌を遂げており,特に理論計算と実験との協同作業の必要性が益々高くなっ ています。特に,電子構造の立場からのクラスター研究には高度な分子軌道法計算が不可欠であり,ま た,動力学研究にとっては,量子力学的解析を高度な理論に基いて行わねば,新しい概念の発見という 道には辿りつけないと思います。周辺分野である大気化学,溶液化学,固体物性,分子生物学などの研 究者との交流,特に,共同研究を通じて,これらの分野における本質的な問題を電子構造の立場から解 明しようとする挑戦が可能となり,真のブレークスルーが生まれるのではないでしょうか。様々な理論 計算手法が,次第に汎用化されつつあり,計算機の急速な進歩によって,10年前には考えられなかった 大きな分子あるいは集合系の精密な計算も夢ではなくなってきました。このような状況は,実験を主体 とする電子構造研究系の各グループの研究の戦略設計や展開に少なからぬ影響を与えています。しかし, 一方で,予想可能な結果を出す事よりも,予想を超えた発見こそ,真のブレークスルーではないかとい うことを,我々は肝に命じておく必要があると思います。先端の理論を取り入れる事により,理解がいっ そう深まるのも事実ですが,もっと未知な領域に飛び込めば,新しい発見の可能性は飛躍的に増大する 訳です。これは,相当の困難を伴いますが,研究所ではこのような未知に近い領域への挑戦が必要では ないでしょうか。研究者の視線が,広い興味と深い洞察力を伴って,まだ見ぬ真理へと向けられていれ ば,研究所は質の高い研究者集団として成果をあげることができると考えます。

A(所外): クラスターという構造自由度の極めて高い系を扱うために,従来からの実験手法のみからでは有意な議 論を展開するのに困難が伴うという事情は,皆が認めることだと思います。ただし,その解決策は, 1)新種の実験手法の開発と応用

2)実験データの新しい解析法の開発と応用 3)理論計算法の開発と応用

のように,計算だけではないように思います。より広い視座に立って研究戦略を練って欲しいと思いま す。なお,新概念の樹立を目標に置くときに,必ずしも,手法や技術の粋を極めるのではなく,これま

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で着目されていないことに新たな取り組みを進める際には,かなり荒削りな手法でよいこともあります。 ただ,このようなプリミティブなアプローチは,お金や研究支援体制ではるかに劣る環境の大学などに, ゆずっていただく方がよいかも知れません。

D(所内): 近年の理論計算の進歩・有効性はだれしもが認めるところで,理論家との共同研究も重要になってます。 一方,新たな実験手法の開発は新領域の開拓につながる可能性があり,広い視点で独自の方法論を展開 する事の重要性はご指摘の通りと思います。その意味でもアイディアを試行する際のしきい値を低くす る様,心がけることも重要と思います。

E(所内): 実験が「値」の測定を目的とするなら,計算によって,より少ない労力でそれが得られるようになった 時,実験の役割は終わると思います。重要な実験は,その時点で最も深い我々の理解(理論)を検証し, 欠けている新しい視点(概念)を提案するもののはずです。前者においては,最高の理論,計算との比 較を行って,解明されたこととそうでないことを峻別し,次の新しい研究の方向を示すべきです。後者 においては,新しい個性的な視点が示されれば精度などどうでも良いと思います。「予想を超えた発見」 の「予想」とは,言い換えれば優れた理論と計算であり,直感ではないはずです。少数多体系の研究も, 理解の検証と新視点の提供にどれだけ寄与しているかで,実験の真価が明確になる時代が来たのだと思 います。これは,小さな分子の研究で過去に起こったことと同じことのように思えます。

B(所外):“ 予想可能な結果を出す事よりも,予想を超えた発見こそ,真のブレークスルーである” に大賛成です。 ただし,計算化学との関連については,個人的には疑問に感じます。計算から意味のある予想外の結果 が出ることはありえないからです。もし計算から予想外の結果を得たとしても,それは単にモデルが正 しくないか近似が十分でないかなどの理由で却下されるのがオチです。その点が実験と計算の大きな違 いです。

4-3-2 国内委員の意見書

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 委員A 分子科学研究所は,国内共同利用研究機関として設置されたものであるが,国際的に急速に発展している分子科学 分野において,我が国の研究体制を大学等では対応しえない極めて高度な国際的水準で整備し,さらには世界をリー ドする水準へと高めることを,その主要な使命としてきた。電子構造研究系は,発足の当初より,高い水準でこの分 野の発展に貢献してきており,教授・助教授ともに世代交代した現在においても,分子科学研究所に課された使命を, きわめて高い水準で維持発揚するに相応の陣容を備えていることは喜ばしい。しかしながら,今日では,大学等にお いてCOE等の各種大型予算の獲得が可能となり,国立共同利用研の存在意義と使命の根拠が薄れつつある。また,大 学の独立行政法人化が検討され大学の研究体制の柔軟な拡充が可能になろうという情勢に鑑み,大学ではなしえない 使命を分子科学研究所に求めることは従前より困難になりつつある。こうした情勢の中で,分子科学研究所において は,既存の学問体系にとらわれずに,新分野の形成につながる研究領域を果敢に開拓する役割を集中的に担うべきで あろう。分子科学研究所の使命を新研究領域の開拓に集約すれば,現在の研究体制はこれに適していない。研究の方 向が挑戦的になればなるほど失敗の危険は増加する。研究単位が小さければ,失敗は即その単位の滅亡を意味する。命 を賭すほどの研究者魂こそ重要とはいうものの現実にその勇気を各研究者に強いることは無理であろう。挑戦的課題 に多大な設備投資や労力投入をそれほど要さない理論研究系とは異なり,実験研究系では,研究単位の拡充こそが失 敗を恐れない挑戦を大胆に展開するための唯一の解決策である。

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西グループは,溶液構造について独自の視点から国際的にこの分野の研究をリードしており,研究組織を拡充して 広範にこの研究を展開することが望まれる。新規な現象認識と概念形成を課題にする限り,精緻な水準に至らない側 面は避けがたい。今後も瑣末な精密化に拘泥せず,溶液構造の分子科学の基盤を樹立し,新規な現象認識と概念形成 を含む研究を発展させていただきたい。

藤井グループは,着想のよい研究を多数めざしているが,研究組織が小さいため十分に推進できていない点が気が かりである。超解像レーザー顕微鏡の開発を共同研究で進めているが,分子科学の新領域開拓と合目的的新技術開発 の2足の草鞋は,現在の研究組織では無理が伴う。研究室の歴史がまだ浅いだけに現状はやむを得ないと思われるが, 上で述べた研究体制の拡張がすぐに実現できないとすると,課題を精選して集中的に研究を展開することが急務であ ろう。

鈴木グループは,革新的な画像観測技術を駆使して化学反応素過程研究の新領域の開拓に勢力を集中していること は評価できる。理論だけでは解明の難しい現象を精密に観測できるようにすることによって,理論と実験の詳細な比 較を可能にし,化学反応系の挙動を予測できる理論の開発を促すことは,実験的分子科学研究の重要な課題である。さ らに実験的研究技法の根幹をも独自に開発できれば,よりスケールの大きい挑戦的研究を展開できると期待できる。

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 委員B 西グループは,クラスターレベルでの分子間相互作用という大きなテーマのもとに,液体/溶液の部分構造という 旧くて新しい,そして化学にとって必須な問題に取り組んでいる。低波数ラマンスペクトルの解析から,水とアルコー ルの混合液体の部分構造が,水とアルコールそれぞれに固有な部分構造に分解されるという仮説を提出し,この問題 の新しい切り口を提示した。最終的な検証には,低波数ラマンスペクトルを与える部分構造モードの特定を含め,さ らなる研究が必要であると思われるが,議論の出発点としてこの仮説の果たす役割は極めて重要である。今後の発展, とくに動的な視点がどのように導入されて行くのか注目したい。藤井グループは,イオン化検出による超音速自由 ジェット中の振動分光により,分子や分子クラスターの構造とダイナミクスを調べている。この手法は藤井グループ 独自のものであり,従来の手法では到底得られなかった数多くの極めて興味深いデータが集積されている。しかし,そ れらの解釈は今後さらに深化させる余地があるように思われる。その過程で,何らかのブレークスルーの糸口が見つ かることを期待する。鈴木グループは,光電子,光イオン化種などの2次元画像検出により,超音速自由ジェット中 の分子の反応素過程を詳細に調べることを目指している。独自の実験装置を設計・製作し,他のグループの追随を許 さない精緻な実験に挑戦する研究姿勢は高く評価できる。理論が最も得意とする小さな自由分子を対象として,理論 のより高いレベルでの検証に焦点を置く方向と,機能性分子などやや大きな分子を対象として,従来得ることが不可 能であった素過程に関する新しい知見を得る方向の二つの可能性が提示された。筆者は後者の方向により,何か予想 外の実験結果が得られることを期待する。

電子構造研究系の3グループの研究レベルが,国際的に見て一流の水準にあることは疑いない。それは,国際的に 評価が確立している論文誌に,過去数年にわたって継続的に論文が発表されていることからも窺われる。これまでに 得られた研究成果が,文字通り画期的というレベルに達しているとは言い難いが,今後画期的成果につながる可能性 を十分にはらんだ研究が行われているということは間違いない。これらの研究が相互にどのような関係にあるのか,ま た「電子構造」というキーワードでどう括れるのかという点に関しては,検討の余地がある。新任の助教授も含め,研 究系としての重点をどこに置き,それに向かってどのような体制をとるのか議論することが必要であると考える。

分子研全体を見ると,個々の研究グループの健闘が目立つ一方,全体としての姿が見えにくくなっている感が否め

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ない。Heisenberg が言ったように,「部分」をいくら集めても「全体」にはならない。分子研は,独立の研究所である が故に,その存在理由を明確にするための「全体」像を強く求められている。設立時における狭義の分子科学から,次々 に間口を広げて広義の分子科学の担い手となった現在の分子研において,どのような「全体」像が成立し得るのだろ うか。分子研内の研究者のみならず,外部にいて分子研と協力する立場にある分子科学者にとっても,極めて重要な 問題である。筆者は,大学の理学部的なスタンスで,「基礎分子科学」の研究に邁進する研究所であってほしいと願う。 昨今の時限プロジェクト研究には馴染まない,知的好奇心に基づいて自然の根源を問う研究を支援する中核機関とし ての分子研であってほしい。そのためには,分子研の顔となるべき有力な研究グループを育成して(場合によっては 人員配置の再構成を行って),他を圧倒するような基礎研究業績をあげることにより,基礎研究における分子研の存在 意義を強く訴えてゆくことが急務であると考える。

最後に今回の外部評価に携わった感想を一言述べたい。ヒアリングの予定時間は1時間であったが,どのグループ の場合もその予定を大幅に超え,ヒアリングというよりはディスカッションの様相を呈した。内容はいずれも筆者に とって有益かつ楽しいものであった。今後,研究者がこのような外部評価に携わる機会が増えて行くものと予想され る。研究内容等に関する十分なディスカッションに基づき,「自分ならこうする」という意見を peer review という形で 述べることは,評価される側にとってはもちろん評価する側にとっても有益である。その意味で,我々研究者は外部 評価の機会を積極的に活用して行くべきであると思う。ただし,外部評価をあまり頻繁に行うのは好ましくない。筆 者は,5年ないし7年に一度程度が適当であると考える。

4-3-3 国外委員の評価

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 原文 Professor K. Müller-Dethlefs Department of Chemistry The University of York Report on my review of the Department of Electronic Structure

D ear Professor K aya

It was my privilege to visit the Department of Electronic Structure at the Institute for Molecular Science from 13 to 23 December 1999. During this short visit I had the pleasure to hold interviews with Professor N Nishi, Professor M Fujii and Associate Professor T Suzuki. The discussions with the faculty of the Department of Electronic Structure were held in a cooperative atmosphere and allowed me to get deep insight into their past, present and future research activities. I would like to express my gratitude to all of them for their openness in our discussions and for their full cooperation that allowed me to prepare this review in a rather short time.

The Department of Electronic Structure

The Department is fairly small, however, it covers quite a broad range of state-of-the-art research. Since the last report by Professor Carl Lineberger two new Full Professors have been appointed following the retirement of Professors Hanazaki and Yoshihara. Professor Nobuyuki Nishi moved to IMS from Kyushu University in April 1998 and Professor Masaaki Fujii joined IMS from Waseda University in April 1997. These appointments follow the well established tradition of the Institute for Molecular Science to always search for the best available candidate in open competition, and not to promote internally from Associate Professor to Full Professor. Both Fujii’s and Nishi’s appointment has clearly been a remarkable success story for the Department and IMS. Both

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Professor show very high originality and innovative experimental concepts in their research. Within the rather short time past since their appointment they have established new state-of-the-art scientific fields at IMS that can compete on an international level. The same can be said about the scientific achievements of Associate Professor Toshinori Suzuki (at IMS since 1992), who has gained a remarkable international reputation in spite of his young age. In my view the Department of Electronic Structure represents those aspect of modern science that I feel should be enhanced ; modern and competitive fields of research, and open view of science and scientific achievement, and guiding of research associates, post doctoral fellows and students through scientific ideas, innovation and achievement and not through autocracy.

The research in the Department excels in a variety of fields that are currently of high international interest: Intermolecular interactions at cluster level, bridging the gap between the isolated molecule and the condensed phase, molecular beam studies of intramolecular vibrational energy redistribution, excited state and ion spectroscopy of large molecules and clusters, microscopy below the diffraction limit, and chemical dynamics studied by time resolved laser spectroscopy, and fragment and photoelectron imaging techniques. The experimental activities of all three research groups reviewed rely heavily on the use of sophisticated detection methods to study molecules and clusters in molecular beams and liquids. This necessarily involves the day-to-day use of lasers, with a particular emphasis on the picosecond and femtosecond time scale. Much of the short-pulse laser equipment has to be shared between the groups, leading sometimes to a shortage of measurement time, for instance on the ps two-colour laser system. Just shortly before my arrival this laser system broke down, causing a major disturbance of a part of Fujii’s research activities.

Generally it can be said that the research activities of the Department are at an internationally competitive level. Publication output in international high quality scientific journals is excellent. All three group leaders have received invitations to give talks at international conferences. The research associated, postdocs and PhD students find in the Department an intellectually stimulating and scientifically challenging environment. To maintain this level, the Department needs a very high level of funding to be able to expand and maintain its laboratory equipment and laser facilities. All three groups have attracted very substantial external funding, which is a clear sign of very high recognition. The external funding contribution should, however, not be seen as a replacement for IMS funding. The research activities of the Department require a very high level of research infrastructure.

I also noted during my visit that both Full Professors have quite enormous administrative duties. These duties are often extremely time consuming and scientifically counterproductive. I do not see why IMS must have so many committees and why they always have to be chaired by a full professor. How important it is not to be overloaded by administrative duties is clearly evident when looking at the Associate Professor position. As Associate Professor, it is possible to concentrate completely on research. Associate Professor T Suzuki presents us with a very convincing success story. His research is internationally acknowledged, his research had innovated the use of imaging techniques in chemical dynamics. I feel the level of support from IMS was just right for him, so I do not, of course, propose here to increase the administrative duties of Associate Professors. I think the system at IMS is very good, and rightly so, for an innovative Associate Professor and I would recommend to keep it like that.

Another problem relates to student numbers in the Department. Student numbers, considering the resources and the potential research projects could easily be tripled or quadrupled. This is a very difficult problem to solve, but one way forward might be to have joint professorial appointments with Universities. Also it would be a good investment to increase the number of studentships available from IMS substantially. These should then be open to competition to all groups at IMS.

Now some more general remarks for the principal discussion which should focus on the following point: Is IMS within all its Departments able to maintain the scientific leadership in Molecular Science in Japan and is it able to compete a the highest level

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internationally? The answer is related to technical support, infrastructure, internal and external funding and administration. A lot of technical support and technical resources are now very much localized UVSOR facility and the Laser Center. It might be better to localize some of those resources in the most productive research groups. In contrast to the earlier times at IMS, when a full professor at IMS had two research associates, one technical associate and often at least one more postdoc, the situation in the Department of Electronic Structure is now that for two Professors and one Associate Professor there are four Research Associates (H. Kohguchi, Y. Inokuchi, T. Nakabayashi, M. Sakai), one Postdoc (Saeki) and one Technical Associate (H. Katayanagi). Though in my view external funding is very important as a proof of competitiveness, IMS as a Center of Excellence should provide sufficient funds for infrastructure and scientific personnel so it will be able to compete with the personnel structure of the big universities. The universities have the advantage of student throughput; IMS should provide an adequate number of research associates, technical associates and postdocs. This would also further enhance the opportunities to obtain external funding.

In summary, all three research groups in the Department of Electronic Structure are innovative and original in their research and their research is internationally recognized. The groups are too small, in particular Fujii’s and Nishi’s group. An increase in the number of research and technical associates would be a very good investment. Most important is an increase in student numbers by attracting high quality chemistry and physics graduates. The two Full Professors are also overloaded by too many administrative duties. One way forward to solve this problem would be to provide the Director-General of IMS with the administrative infrastructure, through reorganization of the Administration, to reduce the overall administrative burden of IMS and Department of Electronic Structure faculty drastically.

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 訳文 K . ミューラー‐ デスレフス教授 ヨーク大学化学教室 電子構造研究系の評価の報告

茅 教授 殿

1999年12月13日から23日に分子科学研究所電子構造研究系を訪れるのは,私にとって名誉なことでした。この短い 滞在中に西教授,藤井教授,鈴木助教授のインタビューを持てた事を嬉しく思います。電子構造研究系の教授・助教 授との議論は協調的な雰囲気の中で行われ,彼等の過去,現在,未来の研究活動への深い洞察が可能となりました。私 は,打ち明けた議論を行い,短期間の間にこのレビューを作成することに協力的であった彼等全員に感謝の意を表し たいと思います。

電子構造研究系

この系は少人数であるにもかかわらず,非常に広い分野に渡って最先端の研究を行っています。前回のカール・ラ インバーガー教授による報告以後,花崎,吉原教授の退官に伴って,2名の新しい教授が任命されました。西教授は 1998年4月に九州大学から分子研に移り,藤井教授は1997年4月に早稲田大学から分子研に加わりました。これらの 人事は,公募による競争の中で最良の候補を探し,助教授を教授に内部昇進させないという分子科学研究所の十分に 確立された伝統に従い行われました。藤井(教授)および西(教授)の任命は,明らかに,系にとっても分子研にとっ

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ても素晴らしい成功であると思います。両教授は,その研究の中に独創性と斬新な実験構想を示しています。既に,着 任後の短期間の間に,国際的に競争力の有る最先端の研究を立ち上げました。同じ事が,(分子研に)1992年着任の鈴 木俊法助教授の学問的な業績に対しても言えるでしょう。彼は,その若さにもかかわらず,素晴らしい国際的な評判 を得ています。電子構造研究系は,私が現代科学に重要と感じている次のような要素の好例であると思います。すな わち,最新の競争の激しい研究領域に取り組み,科学研究と業績に対して公平な目を持ち,助手,博士研究員あるい は大学院生を,上下関係によってではなく,科学的着想,技術革新,研究成果によって導いています。

この系は,国際的に高い興味を持たれている様々な領域において卓越した成果をあげています。それらは,孤立分 子と凝縮相とを結ぶクラスターレベルでの分子間相互作用,また,分子間の振動エネルギー再分配や大きな分子やク ラスターの励起状態やイオンの分子線を用いた分光学研究,回折限界以下の顕微鏡観測,時間分解レーザー分光法,そ して解離断片や光電子の画像観測手法などです。私が今回評価した三グループの全ては,分子線の中,或いは液体中 の分子やクラスターを調べるための高度な検出手段を必要としています。レーザー,特に,ピコ秒‐ フェムト秒レー ザーの日常的な使用は不可欠です。超短パルスレーザー装置の多くを,幾つかのグループで共同利用しなければなら ないでしょう。これはまた,実験時間を短くしてしまうことにもなるのですが。ちなみに,ピコ秒2色レーザーシス テムは,私が来る直前に故障してしまい藤井(グループ)の研究活動の一部の大きな障害となってしまいました。

総じて,この系の研究活動度は国際的な競争力を備えた水準にあります。国際的に高度な学術雑誌への発表状況も 立派です。三つのグループのリーダーもそれぞれ国際会議で招待講演を行っています。助手や博士研究員,大学院生 も,この系が知的刺激に富み科学的な挑戦を起こさせるような雰囲気を持っていると感じています。この水準を維持 するために,この系は多額の研究資金を得て,その実験装置やレーザー設備を更に充実・維持することが必要です。実 際,3グループの全てが大きな外部資金を獲得しています。これは,外部からの高い評価の証しでしょう。外部資金 の獲得は,しかしながら,決して分子研での内部からの研究費のサポートを犠牲にするような事態を招いてはいけま せん。この系の研究活動には,所が充実した研究基盤を与えることが不可欠なのです。

私の滞在中に気がついた事ですが,両教授とも極めて多大な管理的な仕事を負っています。これらの仕事には,非 常に長い時間を費やさねばなりませんし,研究活動にとっては非生産的です。分子研がどうしてこのように多くの委 員会を持っているのか,また,何故,教授が委員長を務めなければいけないのか解りません。管理的な仕事が過大に ならないようにすることが如何に大切かは,助教授を見れば,極めて明白です。助教授は,完全に研究に専念するこ とが可能だからです。鈴木俊法助教授は,文句無しの成功例です。彼の研究は国際的にも評価され,化学動力学の研 究に革新的な画像手法を導入しました。彼に対する分子研の援助は,まさに適切だと思います。従って,ここで,助 教授の義務をこれ以上増やすべきだとは申し上げられません。私は,分子研のシステムは非常に良いと思います。創 造的な助教授に対しては,間違い無く良いのです。このシステムを維持されるようお勧めします。

もう一つの問題点は,系の中の学生数に関したことです。学生の数は,研究設備や実施可能な研究プロジェクトを 考えると,3倍あるいは4倍であっても良いはずです。これは,大変難しい問題ですが,一つの改善策は,(研究所の 教授・助教授が)大学の教官を兼任することでしょう。そして,分子研が提供できる奨学生の数を大幅に増やすこと も有効でしょう。無論,奨学生は,分子研の全てのグループ間での開かれた競争に供せられるべきです。

さて,次のような極めて重要な問題について,所見を述べたいと思います。分子研の全ての系が,日本の分子科学 における指導的立場を保ち,且つ,国際的に最高のレベルで競争してゆくことができるのでしょうか? その答は,技 術面でのサポート,経済的構造的研究基盤,内部あるいは外部資金,および運営に依存します。分子研の分子研内の 技官による支援体制とその資源は,UVSOR施設やレーザーセンターに片寄っています。これらの一部を,最も活発な

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研究グループに集中するのも良いかもしれません。教授が2名の助手と1名の技官と時には複数の博士研究員を持っ ていた分子研の創設当初に比べて,電子構造系では今や,2名の教授と1名の助教授に対して,4名の助手(高口博 志,井口佳哉,中林孝和,酒井誠)と1名の博士研究員(佐伯盛久),1名の技官(片柳英樹)という状況である。私 の意見としては,外部資金は競争力の証しとして大変重要ではありますが,分子研はセンター・オブ・エクセレンス として充実した研究基盤と大学の研究室と競争できるだけの研究人員が持てるように,研究者に予算を与えるべきで す。大学は学生のもたらす研究生産能力によって分子研よりも有利な立場にあります。ですから,分子研は適切な数 の助手,技官,そして博士研究員を研究者に提供しなければなりません。それがまた,外部からの資金を導入する機 会を増加させることになるでしょう。

要約しますと,電子構造研究系の3グループは,いずれもその研究において革新的,独創的であり,国際的に評価 されています。ただ,グループはいずれも小さく,特に,藤井グループと西グループは余りにも小さすぎます。助手 と技官の増加は研究面で良い結果をもたらすでしょう。最も重要なのは,能力の高い化学と物理の院生を集める事に よって学生数を増やすことです。二人の教授はあまりにも多くの管理的仕事の負担が多すぎます。この問題を解決す る方策としては,運営組織の再構成によって,所長の運営を助ける組織を設け,分子研の,そして電子構造研究系の 教授・助教授の事務負担を劇的に減らすことだと思います。

参照

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